日経新聞より
韓国が唱え始めた「日韓経済は1つ」 編集委員 中山淳史
韓国が唱え始めた「日韓経済は1つ」 編集委員 中山淳史
- 2011/9/21
中山淳史(なかやま・あつし) 89年日本経済新聞社入社。産業部、米州編集総局(ニューヨーク)、証券部などを経て産業部編集委員兼論説委員。専門分野は自動車、電機、運輸など。
今月初め、東京・千代田区のホテルニューオータニで開かれた「東京韓国産業展」。主催した大韓貿易投資振興公社(KOTRA、日本の日本貿易振興機構=JETROに相当)の洪錫禹社長はインタビューに応じ、韓国製の自動車部品について自信たっぷりにこう話していた。
■韓国製部品に関心示す日本の自動車メーカー
「この直前に名古屋で商談会を開いたが、トヨタ自動車の反応がすごくよかった。首脳陣も顔を見せ、韓国製部品を評価し、積極的に買おうとしている姿勢をとても感じた」
トヨタ向けの商談会はこれまで2年に1回だった。だが、トヨタ側の希望もあって、これからは毎年開くことが決まったという。
理由は2つあるようだ。まずは韓国製部品の品質が急激に良くなったこと。そして、円高である。
すでに日産自動車が九州にある工場を活用し、地理的に近い韓国から部品を輸入する方針を打ち出している。トヨタも同様に、歴史的な円高への対策で「韓国製品も選択肢」と判断したようである。
韓国産業展は名古屋商談会の成功もあり、会場が熱気で包まれていた。主催者を代表して壇上に立った洪社長は、日韓の政府・企業関係者を前にこう呼びかけた。「経済のグローバル化と円高を考えれば、両国を1つの経済圏と考え、関係を深めていくのが日本、そしてお互いの利益にならないだろうか」
政府のメッセージを広めるためだったのだろう。8月に韓国大使館がしていた説明とよく似ていた。韓国はEU、中南米、米国などに続き、日本ともFTAを結びたい――。そうだとすれば韓国は今後、どんなことを日本とやっていくつもりなのか。
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「1つの経済圏へ」の資料(9ページ分)を見てみよう。それによれば、(1)提携、M&A(合併・買収)などビジネス界での緊密な連携(2)インフラの共同受注(3)資源の共同調達による価格交渉力の強化(4)韓国の対日輸出拡大(5)日本の対韓投資――の5項目が課題として列挙されている。
注目したいのは(4)と(5)だ。とりわけ、(4)の対日輸出は、韓国の悲願である。例えば、電機メーカーとして世界最大手となったサムスン電子(売上高ベース)は日本に対してこれまで、年間1兆円近い対日貿易赤字を計上してきた。電子部品産業の育成が遅れ、日本の技術を使うしかなかったのだ。
だが最近、サムスンはセラミックコンデンサー、複合機の心臓部、有機EL(エレクトロルミネッセンス)などで技術力を高め、日本企業と肩を並べるか、1歩先を行くようになった。「テレビや携帯電話を輸出しても、最後は利益を日本に持っていかれる」。そんな反省に立ち、部品や素材産業の育成に本腰を入れ始めたからだった。
これと同じことが自動車業界でも進み、韓国産業界は日本を含めた各国への輸出に自信をつけている。
FTAの議論は以前からあった。しかし、進まなかったのは、自由化で国内市場が日本車に席巻されるのを恐れた韓国側が反対したからである。
韓国からFTAが唱えられたのなら、韓国自動車産業が警戒を解いたということだ。完成車では韓国メーカーが日本のメーカーと品質面で並びつつあり、円高もある。全体を見渡せば、日本とFTAを結ぶうえで、今がまたとないチャンスなのである。
■韓国とのFTAてこに国際競争力高めよ
だが、日本の産業界は尻込みする必要はない。自動車では日本勢もFTAを活用し、国際競争力を高めていける。資源エネルギーの共同調達が進められれば、日本の産業界が直面している「六重苦」の緩和にもつながる。
日本は通商政策などでの遅れを取り戻さないといけない時期である。韓国がFTAに積極的ということなら、思い切りよく議論に乗ってみてはどうか。もちろん、胸を借りるつもりで、である。
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